飲食業において衛生管理が不十分な場合、深刻な食中毒事故が発生し、営業停止や法的措置、社会的信用の失墜など重大な影響を及ぼします。衛生管理の基礎知識を頭にいれておくことがトラブルの予防につながります。
飲食店における衛生管理の重要性
飲食店では、衛生管理が非常に重要です。衛生管理ができていない場合におこる深刻な問題をみてみましょう。
食中毒の発生
最も重大なリスクと捉えるべき事案です。細菌やウイルス(ノロウイルス、O-157、サルモネラ菌)などが原因で、飲食をしたお客さまに健康被害が発生します。重症化すると入院や死亡例もあり、社会的責任が問われることとなります。とくにこれからの梅雨~夏にかけての時期は食中毒が発生しやすく注意が必要です。
営業停止・行政指導
食中毒の発生により保健所の立ち入り検査がおこなれることになります。不衛生な状態が発覚すると、営業停止命令や改善指導がおこなわれます。食中毒事故を起こした場合は営業許可の取り消しや罰則の可能性もあるのです。
信用の失墜・風評被害
近年はメディアの報道だけでなく、SNSによって広く拡散される時代です。店の信頼は一気に崩壊へと向かいます。衛生状態が改善され、営業を再開したところで利用者が戻らず廃業に至るケースも珍しくありません。
損害賠償の請求
被害者からの損害賠償請求により、多額の費用負担を負う可能性も考えられます。保険でカバーできない範囲の賠償もあり、事業継続が困難になることもあります。
従業員の健康被害やモチベーション低下
衛生管理がされていないと、スタッフ自身も体調不良になるリスクがあることを知っておきましょう。安全な職場環境を確保できなければ、人材の流出にもつながるということになります。
法令違反による罰則
食品衛生法や労働安全衛生法などへの違反で、罰金や懲役刑が科される場合があります。
最近の衛生管理トラブルの実際の事例
ここ最近でも衛生管理のトラブルが発生しています。食中毒に関しては、気温などが関係しますが、2025年に入ってからは寒暖差が激しくさまざまな菌やウィルスが同時に発生するような環境となり、多くの食中毒が発生しています。それらを一部紹介します。
埼玉県東松山市「仕出し弁当によるサルモネラ食中毒」
- 発生時期:2022年8月
- 被害状況:476名中75名が下痢・腹痛・発熱などの症状を発症
- 原因:サルモネラ属菌が原因と判明
- 対応:東松山保健所が営業停止3日間の行政処分を実施
岐阜県岐南町「仕出し弁当による大規模食中毒」
- 発生時期:2025年3月
- 被害状況:300人以上が下痢や嘔吐などの症状を訴え、40代の男性1名が死亡(死亡との因果関係は調査中)
- 原因:ノロウイルスによる集団食中毒
- 対応:警察が食品衛生法違反の疑いで家宅捜索を実施
千葉県船橋市「飲食店「大漁船」でのノロウイルス食中毒」
- 発生時期:2025年2月
- 被害状況:15人中10人が嘔吐・下痢・発熱などの症状を発症
- 原因:ノロウイルスGⅡ型が患者および従業員から検出
- 対応:船橋市保健所が営業停止3日間の行政処分を実施
大阪府阪南市「福祉施設の給食によるノロウイルス食中毒」
- 発生時期:2025年3月
- 被害状況:入居者・職員28名が嘔吐・下痢などの症状を発症
- 原因:調理従事者および患者からノロウイルスが検出
- 対応:泉佐野保健所が営業停止1日間の行政処分を実施
大阪市「飲食店「すし正」での食中毒」
- 発生時期:2025年4月
- 被害状況:9名が食中毒症状を発症
- 原因:ノロウイルスが検出され、提供されたコース料理および弁当が原因食品と推定
- 対応:大阪市が営業停止2日間の行政処分を実施
上記のように飲食業で食中毒が発生することは、いつ起きてもおかしくないことで他人事ではありません。被害者が多く、重症者がいるということになると当然処分も重くなることがわかります。
飲食業における衛生管理の基礎知識
飲食業として上記のようなトラブルをおこさないためにも、衛生管理の基礎知識はしっかり知っていなくてはいけません。
5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底
5つのSは以下のようになります。
- 整理:不要なものは排除しましょう
- 整頓:必要なものは使いやすい場所に置きます
- 清掃:こまめに掃除し、清潔を保ちましょう
- 清潔:器具や設備、手指を常に清潔に保ちます
- しつけ:衛生意識を持った行動を習慣化してください
手洗いの徹底
風邪でも感染症でも同様のことがいえますが、手洗いは非常に重要で効果的です。飲食店においてはトイレ後、食材に触れる前、調理前後などには石けんを使って正しく手洗いすることが求められます。併用してアルコール消毒をおこなうことはとても有効な手段といえます。
温度管理
食材は適切な温度で保存することを心がけてください。冷蔵4℃以下、冷凍-18℃以下が基本です。特にこれから暑くなり湿気が多くなる時期は、少しの間でも常温に放置しただけで菌はどんどん増えていきます。また調理の温度管理も重要です。加熱調理は中心温度75℃以上・1分以上の目安をしっかりと守りましょう。
交差汚染の防止
生肉や魚と他の食品を同じ器具やまな板で扱わないことは重要なポイントです。包丁の使いまわしをおこなったり、まな板を洗浄しなかったりすることで、菌が他の食材にうつってしまいます。それぞれ専用の調理器具を使用することを守りましょう。そして使用後は器具や手をしっかり洗浄・消毒することも忘れずに。また衣服や布巾などもこまめに交換することが望ましいとされています。
従業員の健康管理
スタッフの中に発熱、下痢、嘔吐などの症状がある場合は、出勤することを控えてもらう必要があります。例えばノロウィルスの場合、生存期間は非常に長く、環境中でもしぶとく生き残ることが知られています。人の指でも数日間、調理器具では数日~1週間、乾燥した床などでは1ヵ月ほど生き残る可能性があります。体温測定を含めた、スタッフの毎日の健康チェックや記録が重要となります。
害虫・害獣の対策
飲食店ではゴキブリ、ネズミ、ハエなどの侵入を防ぐことが必要となります。食べ物がある場所には害虫や害獣が寄ってくるため、清掃・ごみ処理・出入口管理を徹底し、専門業者による定期点検もおこなうことをおすすめします。
食品の表示・期限管理
食材・商品の消費期限や賞味期限を守りましょう。開封日や調理日を明記して管理することも有効です。
HACCP(ハサップ)による衛生管理
「危害要因分析」と「重要管理点の監視」による科学的で計画的な衛生管理手法です。2021年から、すべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務化されています。
まとめ
衛生管理は「やって当たり前」ではありますが、怠ることで店の存続に関わる深刻な問題が起こるということを覚えておかなくてはなりません。日々の積み重ねが、トラブルの防止と信頼の構築につながります。全スタッフに周知するため、必要に応じて、ポスターやチェックリストなどのツールを用意するのも効果的です。